ノーベル賞受賞者・オブリージ
2009年12月12日
宇佐美 保
『週刊金曜日（2009.12.11号）』の「投書欄」に掲載されていた「愚かなノーベル賞受賞者たち」との西澤茂郎氏（72歳）の投稿を見てビックリしました。
|
……11月25日、ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏、利根川進氏、野依良治氏、小林誠氏とフィールズ賞受賞の森重文氏五人と発起人の石井紫郎（法制史）東大名誉教授が仕分け批判の緊急声明を発表した。いずれも、危機を訴えるのみで中身はなかった。 そんな中（11月27日）、浜田剛長崎大学助教が3800万円で演算速度日本一のスーパーコンピューターを製作したとのニュースが飛び込んできた。上記の人たち、さあ、どうする！ …… |
私が購読していた、朝日新聞、東京新聞では、「浜田剛長崎大学助教が3800万円で演算速度日本一のスーパーコンピューターを製作」との記事に気が付きませんでした。
そこで改めて、両紙のWEBサイトを「浜田剛」で検索しましたが出てきませんでした。
他紙を検索しましたが、毎日新聞が27日、読売新聞が28日付けで紹介していました。
しかし、産経新聞では見つかりませんでした。
（日本経済新聞には、20日付けで紹介していましたが、金額に関しては記述されていません）
| 何故この浜田剛長崎大学助教の偉大な業績、 即ち、野依良治氏が理事長の肩書きを持つ理化学研究所が開発を予定している 次世代スーパーコンピューター（スパコン）の予算268億円の700分の1の金額で、 「速度日本一のスーパーコンピューターを製作」した事を大新聞は大々的に紹介しなかったのでしょうか？ |
その上、理研のスパコンへの批判再検討の記事を見ることは出来ません。
何故なのでしょうか？
更に、西澤茂郎氏の投書は、野依氏に関して、次の件も教えて下さっています。
|
…… 氏はまた、理化学研究所理事長でありながら、七年間にわたって3200万円の海外収入の記載漏れを指摘された納税意識の低い人でもある。 |
西澤茂郎氏の記述にある「納税意識の低い人でもある」は、私には判断できませんが、野依氏の海外収入の多額さに驚きました。
なにしろ、
| 野依氏の「七年間にわたって3200万円の海外収入」によって、 浜田剛氏の「3800万円の演算速度日本一のスパコン」が製作可能となるのですから！ |
だとしたら、科学振興の重要性を説くにあたっては、国の財政が逼迫している今、全てを国に頼らず、私財をなげうつ覚悟があっての良いのではないでしょうか？！
更に、西澤茂郎氏は次のようにも記述されておられます。
|
野依氏は、二五日午前中に自民党の文部科学部会に出席してから緊急声明にのぞんでいる。 …… 上記の人たち（筆者注：仕分け批判の声明を発表した東大、京大東北大、名大、阪大、九大などの旧帝大と早大、慶大の九大学の総長、塾長、並びに、ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏、利根川進氏、野依良治氏、小林誠氏とフィールズ賞受賞の森重文氏五人と発起人の石井紫郎（法制史）東大名誉教授）は、本来社会的に信頼される立場にいながら、旧政権との関係も深く、既得権を享受してきたが、政権交代によって失うものの大きさにおののいているのではなかろうか。また、旧政権側も、このような「名士」を表にたてて新政権を揺さぶろうとの魂胆であろう。それに乗ったノーベル賞受賞者たちも愚か者と思う。 |
この西澤氏の「野依氏は、二五日午前中に自民党の文部科学部会に出席してから緊急声明にのぞんでいる……旧政権との関係も深く……」の記述から、
| 野依氏が安倍内閣時代の教育再生会議の座長を、 更には、福田康夫内閣直属の教育再生懇談会の委員も務めておられた事を思い出します。 |
教育（科学教育）にとって大事なのは、学力の向上や、制度改革など以上に、子供たちが、自分たちが将来なりたい「憧れの人」を持つことではないでしょうか？
今、子供たちの憧れの人は、スポーツ選手であったり、お笑いタレントであったりであって、科学者の名前が挙がってくるのでしょうか？
不肖、私の「憧れの人は」、小学校時代は「プロ野球選手」でしたが、ある時期から、アインシュタイン、エジソンに代わって行きました。
|
少なくとも「ノーベル賞受賞者」は、子供たちの憧れの人となるよう努めて頂きたいものです。 それが、「ノーベル賞受賞者」の義務、即ち、「ノーベル賞受賞者・オブリージ」であると私は思うのです。 |
私の今は亡き恩師、元東京工業大学学長の齋藤進六先生は
| 「一本の喬木に高く登れば登るほど、たとえその場所は動かずとも視野は益々広がって行く」 |
とおっしゃっておりました。
「ノーベル賞受賞者」の方々は、それはそれは高い喬木に登った事と存じます。
だとしたら、私達に、そして、次代を担うお子様方へ、感銘を与えるお言葉をおはきになって頂きたいものです。
「ノーベル賞受賞者・オブリージ」など御免蒙るとおっしゃるのなら、「ノーベル賞受賞者」の方々が、雁首をそろえて「科学教育」云々に関する抗議は願い下げたく存じます。
（補足：1）「ゴードン・ベル賞：スパコン、３８００万円で完成 長崎大助教ら受賞」
とのヘッドラインの「毎日新聞（2009.11.27）」の記事は次のようです。
|
◇１００億円なんて…秋葉原で部品調達、演算速度日本一 東京・秋葉原でも売っている安価な材料を使ってスーパーコンピューター（スパコン）を製作、演算速度日本一を達成した長崎大学の浜田剛（つよし）助教（３５）らが、米国電気電子学会の「ゴードン・ベル賞」を受賞した。政府の「事業仕分け」で次世代スパコンの事実上凍結方針が物議を醸しているが、受賞は安い予算でもスパコンを作れることを示した形で、議論に一石を投じそうだ。 同賞は、コンピューターについて世界で最も優れた性能を記録した研究者に与えられ「スパコンのノーベル賞」とも呼ばれる。浜田助教は、横田理央・英ブリストル大研究員、似鳥（にたどり）啓吾・理化学研究所特別研究員との共同研究で受賞。日本の研究機関の受賞は０６年の理化学研究所以来３年ぶりという快挙だ。 浜田助教らは「スパコンは高額をかけて構築するのが主流。全く逆の発想で挑戦しよう」と、ゲーム機などに使われ、秋葉原の電気街でも売られている、コンピューターグラフィックス向け中央演算処理装置（ＧＰＵ）を組み合わせたスパコン製作に挑戦した。 ３年かけてＧＰＵ３８０基を並列に作動させることに成功。メーカーからの購入分だけでは足りず、実際に秋葉原でＧＰＵを調達した。開発費は約３８００万円。一般的には１０億〜１００億円ほどかかるというから、破格の安さだ。そしてこのスパコンで、毎秒１５８兆回の計算ができる「演算速度日本一」を達成した。 ２６日の記者会見で事業仕分けについて問われた浜田助教は「計算機資源は科学技術の生命線。スパコンをたくさん持っているかどうかは国力にもつながる」と指摘。一方「高額をかける現在のやり方がいいとは言えない。このスパコンなら、同じ金額で１０〜１００倍の計算機資源を得られる」と胸を張った。 |
（補足：2）「週刊現代（2009.12.19号）」の「米空軍が「プレステ3」を2200台購入の謎」との記事を一部分抜粋させて頂きます。
|
……さる11月中旬、アメリカ空軍がソニー・コンピュータエンタテインメント（SCE） の 『プレイステーション3』（PS3）を2200台発注したことが、米政府の物資調達サイトによって明らかになった。アメリカの兵隊がゲームを楽しむためではない。 その日的は「軍事利用」にあるのだ。 ‘06年11月に発売されたPS3は、オンライン機能や高い画像処理能力が評価され、日本をはじめ米・欧州など世界約120カ国で累計2700万台以上が販売された人気の家庭用ゲーム機である。 そのPS3をなぜ米軍が大量に購入したのか。各国の空軍事情に詳しい航空誌「エアワールド』編集次長の竹内修氏はこう分析する。 「米空軍はPS3に搭載されている『Cell』というCPU（中央演算処理装置）に注目しているのです。 このCPUは現在、世界最速レベルの処理能力を備えており、PS3を大量に繋げばスーパーコンビュータ（スパコン）並みの演算処理能力を発揮します」 Cellは一般的なパソコンのCPUに比べ約20倍も計算速度が速いとされる。IBMが開発し、‘08年に世界最速となる演算速度1ベタフロッブス （毎秒1000兆回の演算処理能力）を達成したスパコン『ロードランナー』にも、やはりCellが搭載されている。 実際、医療や気候変動の研究分野では、すでにPS3がスパコンとして使用され、難病治療薬の開発や気象予測の研究に大いに役立っているという。しかも、PS3は米国ではl台300ドル程度（日本では2万9980円）と販売価格が安いため、Cellが搭載されたパソコンを購入した場合に比べると、ざっと3分の1程度のコストで済むのだ。つまり米空軍は、安くて高性能なスパコンを開発するために、PS3に触手を伸ばしたということなのである。 …… |
浜田氏は、380台を並列にしましたが、米空軍は2200台ですから、浜田氏の約5.8倍の台数を並列接続可能となります。
そうなると、その性能はどうなるのでしょうか？
又、「すばらしい長崎大「浜田助教授」！ 3,800万円で日本一演算速度のスパコン開発」とのサイトでは、次のようにも書かれています。
|
……今後ＮＥＣや富士通が、長崎大学の側に研究施設を作り助教授の支援にあたると思われるが、ＮＥＣや富士通さんはいかがであろうか。長崎経済浮揚のためにもお願いしたい。 両社等が開発に賛同協力すれば、世界が度肝を抜く超高速のスパコンが安価に開発されるであろう。 |